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短槍使いの女用心棒バルサを主人公にした、『精霊の守り人』に始まる"守り人"シリーズの四作目。今回は〈来訪編〉と〈帰還編〉の二冊で構成された大作だが、そのボリュームを感じさせることなく一気に読ませる。 ロタ王国の人里はなれた森の奥に、ひっそりと暮す〈タルの民〉。バルサは幼馴染の呪術師タンダと訪れた薬草市で、母親が禁忌を犯して処刑され、人買いの手に渡ったタルの兄妹チキサとアスラに出会う。彼らに幼少期の自分の姿を垣間見たバルサは、二人に深く関わることになるのだ。 人買いが兄のチキサに乱暴を働いた瞬間、美しい妹のアスラの不思議な力によって人買いは惨殺され、駆けつけたバルサも傷つく。アスラの異能に恐ろしき神タルハマヤの再来を予感した、国王の猟犬組織〈カシャル〉の呪術師の娘シハナは、アスラを連れて逃亡するバルサを執拗に追う。そして、その陰謀によりアスラは連れ去られ、バルサは厳冬の断崖絶壁から墜落し九死に一生を得る。まさに波乱万丈、手に汗握る展開で飽かせない。 伝説のサーダ・タルハマヤ〈神とひとつになりし者〉として、恐ろしい力を増長させていくアスラ。その力を使って、処刑された兄妹の母親に恋した王弟イーハンの協力により、王国の平和を達成しようと目論むシハナ。王国の安定のためといえども、アスラの恐ろしい力を使うことは許されないと、それを必死で阻止しようとするバルサとチキサ。作品は、アメリカの同時多発テロの一ヶ月前に書き終えられたという。平和を口実に戦争という大量殺戮が容認されかねない現在にも、深く根をおろした重厚な作品である。(小学上級から)野上暁(産経) |
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