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死んだはずのぼくの魂に突然「おめでとうございます。抽選にあたりました!」と天使の声。大きな過ちを犯して死んだ罪な魂に、ときどき天使のボスが抽選で再挑戦のチャンスを与える。それでぼくは、ガイド役の天使にいざなわれ、服薬自殺した十四歳の少年、小林真(まこと)の体を借りて現世にホームステイすることになる。ちょっとマンガチックで魅力的な導入部なのだが、内実は今日的に深刻で重苦しい。 真はチビで内気で友だちもいない。そんな彼に明るく声をかけてくれる少女を真はひそかに恋していた。その彼女がこともあろうに中年男とラブホテルに入っていくのを目撃する。しかも同じホテルから今度は母親が不倫相手と出てくるのを見て、人間不信のどん底に突き落とされた真は睡眠薬を飲んだのだ。 というと、現代の子どもを描いた問題小説かとも思われるがそうではない。前世の記憶も曖昧(あいまい)なまま真の体を借りての学校や家庭での悪戦苦闘は、まるでセーブしないでリセットボタンを押してしまったロール・プレイング・ゲームのリプレイみたいでスリリングだ。 作者は十四歳の少年少女たちの危ない感受力を丁寧にすくいあげ、真を取り巻く人々の個性を際立たせながら、その心模様を色とりどりにカラフルに染め上げていく。この世界も捨てたもんじゃないんだぜって感じが爽快(そうかい)で魅力あふれる作品となっている。(野上暁)
産経新聞1998/09/21
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