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『からすたろう』の作家、やしまたろうは国外ではかなり名前の売れているかたですが、日本ではあいにくとあまリ有名ではありません。なぜかというと、かれは戦時中、奥様と二人で特高に捕まって拷問され、そのあとアメリカに行ってしまったからです。そこらへんの事情をもっとよく知りたいかたは『あたらしい太陽』という本を読んでください。晶文社から出ています。 そうして彼は日本を描きます。じぶんが子どもの頃に暮らした日本を-。ですから、やしまたろうの描く絵本は、かれこれ七、八○年前も昔の日本のことばかリです。でも、描かれてあることはちっとも古くなっていません。 『からすたろう』に描かれているのは、山の小さな小学校と、そこに新しく赴任してきた熱心な若い男性教師と子どもたち……特に、遠い遠い山のむこうから、一日も欠かさず通ってはくるのにほとんど字も書けない、授業中は居ねむりばかりしている男の子、です。 その先生は、クラス中に無視されていたその子と、よく長い時間、話をしました。誰にも読めない彼の習字も、ちゃんと後ろの壁に張ってやりました。でも、きわめつけ、は六年生最後の、その子にとっては学校生活最後の学芸会で、彼に〃からすの鳴きまね〃というのをやってもらったことです。小さい村ですから、村中の大人が来ていました。その前でその子は、淋しい時、子どもを探している時、嬉しい時のカラスの鳴き声を見事にやってのけ、そうしてそれからあと、炭をしょって村へ売りにくるようになったその子と会うたびに、村のひとたちはなんとなく、うやうやしくその子に挨拶するようになるのです。 人が幸福に存在するためにはその人がいる共同体で認められることが必要です。今も、昔も-。(赤木かん子)
『絵本・子どもの本 総解説』(第二版 自由国民社 1997/01/20)
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