からすのパンやさん


かこさとしおはなしえほん 偕成社刊

           
         
         
         
         
         
         
    
    
 最近、ゴミを荒らすとすっかり嫌われ者になってしまった烏()。編集部のある新橋でもよく見かけます。間近に見ると、つやのある真っ黒な翼、大きくて鋭い嘴()、そして、ギロッとにらむ迫力ある眼。怖い気もしますが、私の小さい頃は、童謡や絵本に烏が登場し、親しみがありました。今回は、『からすのパンやさん』をご紹介します。
 物語は、森に住むある烏のパンやさんのご夫婦に四羽の子どもが生まれたところから始まります。烏なら体の色は黒だとお思いでしょう。ところがこの子たちは、少々ちがった色をしていたので、チョコちゃん、リンゴちゃん、レモンちゃん、オモチちゃんとなんともおいしそうな名前がつけられました。ご主人と奥さんは、せっせと粉を練り、パンを焼き、と一生懸命働きますが、四羽のひなたちはちっともじっとしていません。仕事の傍らひなの世話をするために、お父さんはパンをこがしてしまったり、半焼きにしてしまったり、お母さんは店の掃除も思うようにできません。パンを買いにくるお客さんはだんだんと減って貧乏になっていきました。そんなとき、大きくなったチョコちゃんたちの意見を聞いてパンを作ると…。
 家族みんなで力を合わせて働く様子がなんとも楽しげで、うらやましい。パン作りに励むようになったチョコちゃんたちは、お父さんと同じ、白いコックさんの帽子をかぶってすっかり一人前の顔をしています。
 そして、どんなパンができあがったかというと…。それはそれは面白くてすてきなパンばかり。いちご、バナナ、パイナップルなど、果物そっくりの美味しそうなパンもあれば、脚のついたテレビやピアノがあったり、口をとがらせたタコに、首の長いキリン、白と黒でアクセントがついているパンダが並んでいたり。おそなえパンにはかざりのミカンまでついている凝りようです。野球のグローブや、飛行機、おなべ、おちょうしとおちょこに、自動車、鉛筆、本に大根。みんなみんなパンでできていて、その様子は圧巻! 思わず歓声をあげてしまうほどです。
 細かい描写は、むろんパンだけではありません。物語の後半、焼き立てのパンの売り出しの日、パンやの店先にはたくさんのお客がつめかけます。その大勢の烏一羽一羽の個性がきちんと描きわけられ、ユーモラスな表情がのぞき、ページのすみずみまで楽しめるのが嬉しい。
 混雑する店先をせいりするためにお父さんが出すアイデアもすばらしく、「烏って頭がいいなあ」と感心しました。
 チョコちゃんたちはここでも大活躍。「おかあちゃーん、おなかへったようー。なにかちょうだいようー。」と騒いでいたのが嘘のように、てきぱきと家のお手伝いをするのです。
 食欲の秋を迎え、ほかほかパンのおいしい香りが烏の森から漂ってくるような一冊です。(星野博美
徳間書店「子どもの本だより」2000年9月/10月号
東新橋発読書案内「家族みんなで」
テキストファイル化富田真珠子