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日曜日には友だちとテニスを楽しみ、おいしいものを食べ、冗談でみんなを笑わせ、戦争や飢えは「よその国の話さ」と思っているシランさんは、つまり、ふつうの青年でした。ところが、ある夜、いきなり逮捕されて・・・。 雨の日はぬれて歩くのが気持ちいい、とシランさんはかさをさしませんでした。その〈かんがえ〉がみんなとちがうのがよくない、というのです。どろぼうも人殺しもしたわけではないのに。 どこかでおこりそうなこわい話。『かさをささないシランさん』(谷川俊太郎+アネムスティ・インターナショナル作、理論社・1200円)。いせひでこさんの描くおしゃれな街角やスマートな人びとも、なんだか見なれたふんいき。これは空想の世界ではありません。シランさんのようなめにあっている人は、世界中にたくさんいるのです。 あなただってシランさんと同じように、ちょっとひととはちがった感じ方をすることがあるでしょう? 人間が人間らしく生きていくには、他人の自由を大事にしなくては。そんな主張がじいんと伝わってくる絵本。ひとの自由を真剣に考えるとき、たぶん「私の自由」もほんものになるのでしょう。 おおぜいのひとの意見を聞いたり、力を出しあったり、この絵本は感性までに四年もかかりました。シランさんはまだろうやの中です。(芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1991/04/07
テキストファイル化 妹尾良子
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