風をつむぐ少年

ポール・フライシュマン作
片桐しのぶ訳 あすなろ書房

           
         
         
         
         
         
         
    
 風を受けてくるくる回る、板でできた人形や鳥や動物たち。最近では日本でも庭先で時々見かけるようになりましたが、それを英語ではファーリギグと呼んでいます。この物語の原題も「ファーリギグ」。十七歳の主人公ブレントが、この<風で動く人形>を、なんとアメリカの四つの隅、ワシントン、カリフォルニア、フロリダ、メイン州の海辺に立てて歩くという話です。というと、軽やかなロード・ムービーの印象ですが、実はブレントの魂が<罪の許し>を得るための、償いの旅だったのでした。
転校したばかりのシカゴの私立高校で、なんとか恰好いいところを見せて溶けこもうとしていたブラントは、級友の前で恥をかかされたため自信を失い、飲酒運転のすえ、自殺の誘惑にかられてハンドルから手を放します。車は中央分離帯に激突。彼は軽傷ですみましたが、つっこんできた後続車を運転していた十八歳の女性リーを死なせてしまいます。
 リーの母親は彼を責めず、<風で動く人形>を作ってリーの名前を書き、アメリカの四隅に立ててくれと頼み、彼の奇妙な贖罪の旅がはじまりました。
 その旅は追放されたカインのように、孤独できびしいものではありましたが、また若いブレントが自分自身を発見していく道のりでもありました。彼はバス旅行の間に星座の名を覚え、読書や音楽の喜びを知り、木工の腕前も上がっていきます。そして彼の立てていく<風で動く人形>は、それぞれ思いがけない人の人生につながっていき、その行為は風のように循環して人びとをつないでいくことになるのです。
 <イエスとともにあるかぎり、だれもひとりぼっちではありません>というモーテルのメイドのメモの挿話も心に残ります。詩人でもある作者の『種をまく人』も前にこの欄でご紹介しました。(きどのりこ
『こころの友』2000.11