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夏の思い出は、なぜか胸の痛みを伴なうのが常だが、今年はあのすさまじかった暑さのせいで、ことさら印象深い夏になった。今月ご紹介するのは、きらめくような忘れ難いひと夏を過ごした少女たちの本。 『ケィティの夏』の主人公は十二才。おしゃれにも男の子にも、まだまだ本気でのめり込めないお年ごろだ。 母親を病気でなくしてからは、軍人である父親と姉の三人暮し。優しくて良くできた母親を突然失ってしまった心の空洞を埋めようと、三者三様に必死にあがく姿がセツナイ。 軍事基地を転々として育った作者の、恐らくは自画像なのだろうが、ケィティとその姉も、軍人である父親に従って引越しばかりの人生を強いられてきた。この夏またもや転勤を告げられたヶィティはつぶやく。 「どうせまた私は、同じ学年の全然知らないクラスの前に立つのだ。クラス全員が膝こぞうをゆさぶり、へらへら笑っているところで・・・。」やがて、どのグループにも入れてもらえない子が近づいてきて、自分の居場所を見つけるまでの一時しのぎの付き合いが、始まる。「そんな事をひっきりなしにやらされるなんて、あんまりにもきつすぎる。」 同じように転校ばかり繰り返してきた経験を持つ人には、このやるせなさは身につまされるにちがいない。 この父親のガンコさも、半端じゃない。いるんだねえ。アメリカにも、こういうおとっつあんが…。娘たちのことごとくを自分の手の内に封じ込めようとする父親に、真っ向から対立するのが姉のダイアンだ。ついにダイアンは、ある夜ボーイフレンドと駆け落ちをする。誘われて車に乗ったケィティと三人の長いドライブが始まる。やがて迎えにきた父親のもとに帰るケィティと、別の人生を選んだダイアン。父親も含めてそれぞれの生き方が、読者の胸に染み入って、深い余韻を残す。 『夏の鼓勲』に登場する中学生たちは、煙草を吸い、酒を飲み、乱暴な言葉づかいでしかしゃべれないツッパリだ。けれども一皮むいてみれば、そこには、受験体制からはみだしてしまった焦りと、教師や親に対する不信感から必死に仲間との連帯感を求めている、ピュアてナイーブでまっとうな姿がある。 赤いパンプスを履いて、ひと夏ツッパッテはみたものの、それは本当に欲しいものじゃない。エリカが望んているのは、「一瞬一瞬自分にマジでいられる生活」だ。エリカがそれを手に入れる日も近い。そんな予感を読者に抱かせる、キレのいい青春小説だ。(末吉暁子)
MOE94/11
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