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まず最初の一行からドキッとさせられる。いきなり「夏休みの第一日目、私はユウカイされた」というのだから。セブンイレブンに新発売のアイスクリームを買いに出かけた少女の横に車を停めて少女をユウカイしたのは、しばらく別居している彼女の父親である。少女は冗談かと思うが、どうやら父親の方は真剣そのもの。借り物の車を返すと、古びた安旅館を振り出しに海辺の民宿から露天風呂のある温泉宿へと転々と逃亡し、行く先々で母親に電話して交渉を続けている。 少女はだんだん不機嫌になり、駅前の人込みの中で突然叫び声を上げて、駆けつけた警官に父親は両手を押さえられ、二人は警察に連れて行かれたりもする。 そのうち父親はお金が無くなってきて、お寺に泊めてもらったりキャンプ場で捨てられたボロボロのテントを組み立てて寝たりと、旅はだんだん悲惨な情況になってくる。ところが少女の方は、そんな情けない父親との奇妙な旅が楽しく思えてきて、両親の交渉が成立して母親のもとに返されることになっても納得できない。読み手もまた、父娘の貧乏旅行の怪しげな魔力に引き込まれていき、この魅力的な旅の続きを期待したくなる。不器用な父親と少女のやり取りは一種ユーモラスで、甲斐性の無い父親に対する少女の微妙な心のゆらぎと、少女の父親に対する納得の仕方もまた清々しい。 読み終えた瞬間、これは映画にしたら面白いだろうと思った。作者得意のロード・ノベルの傑作である。(野上暁)
産經新聞 98.12.01
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