黄色い目の魚

佐藤多佳子 新潮社 02・10・30

           
         
         
         
         
         
         
    

 母と離婚して七年以上経って、突然電話してきた父親と会うことになった高校生の木島悟。父の家近くの飲み屋で酒好きの父に付き合い、初めて日本酒を飲み一緒に行った彼の部屋はカンバスだらけ。リンゴのデッサンの指導を受けて帰った翌年、父親は悟に油絵の道具一式を残して肝臓の病気で世を去る。
小学一年生のときに描いた黄色い目をした魚のクレヨン画を元に、叔父さんがマンガ化して大ヒットした村田みのり。中学生の頃から周囲にムカついて孤立し、荒れがちな彼女が一番安らげるのはマンガ家の叔父さんのアトリエだ。夏休みもそこに泊り込んでアシスタントの真似事をしているのだが、両親との軋轢は絶えない。
最初のうち、それぞれ十六歳の高校生を主人公にした短編集かと思った。しかし、みのりのモノローグの中に落書き男として悟が登場し、執拗に彼女の似顔絵を描き続けるあたりから、次第に二人の関係に焦点がしぼられ、読み手はぐいぐいと作品の世界に引き込まれる。なかなか巧妙な仕掛けである。
始めはさほど意識していなかった二人だが、彼らを取り巻く様々な事件や、それぞれの悩みを投影しあいながら、物語が絡み合い濃密さを増幅していく展開は見事だ。湘南の海辺の町を舞台に、高校生の生活実感や心情を息苦しいまでに充満させ、若い二人が悩み戸惑いながら全身でぶつかり合って、おたがいに確かな自分を求めていく。結末が爽やかなラブストーリーでもある。(中学生から)野上暁 (産経新聞)