きみの犬です

令丈 ヒロ子・作
理論社 1998

           
         
         
         
         
         
         
     
 高校生のピナは、ある日カラオケの合コンが企画され出掛けていく。つまらないと白けているピナの前にちょっと変わった男の子が現れる。いきなり「僕、あなたに飼われていた犬のシロです。人間になって今はシロタといいます。」と言われたピナは、からかわれているんだと思いながらも何だか気になり、散歩なら連れていくと言って犬と飼い主の関係を始める。その後、ピナは元彼だったサトシと再開し交際が復活する。親友のかおりんは「いやだな。またあんたがあいつに泣かされるの見たくないよ。」と助言をする。ピナは今度はうまくやるよと思っているのだが不安はつきまとっている。自分らしく相手に合わせない恋をしていこうと気づいたピナは彼に毅然とした態度になっていく。そんなピナを冷静な目で見、判断し、アドバイスしたり、励ましてくれるシロがピナにはとても頼もしい存在になっていく。サトシはサトシでピナに自分を解って貰えず、素直じゃない自分に苛々しているし、忠実な犬になっているシロタも、飼い主でないピナを意識し始める。それぞれの思いにとらわれ、ピナ、シロタ、サトシ、の関係が微妙に変化していく。
 この作品では、自分が傷つくのを恐れて相手に対して本音でぶつかっていけない子ども達が、なんとかして人間関係をむすんでいこうとしている。恋愛にしても表面上は波風たてずに、うまくやっていこうとするが、心の奥のほうでは、相手に合わすだけではなく、本当はどう思っているのか素直に知りたがっている。そんな心もようが何故か他人はよく見えるのに、当事者には見えにくくややこしくなってしまっている。友達の事で悩んだとき、姉のような視点で支えたり励ましてくれる作者の思いが感じとれる。
 作者の他の作品でも、話の中で大いに悩み傷つき喧嘩しながら人間らしく成長していく子ども達がたくさん登場し、子どもの思いが素直に書かれている。(山田千都留
読書会てつぼう:発行 1999/01/28