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花という名の少女(六年生)のさりげない日常にひそむときめきや不安を、いかにも子どもらしいエピソードを連ねて描いて見せた短編連作である。 分類上は「児童文学」に入るのだろうが、本書はそんなせせこましい限定など不要な、まっとうな文学作品である。子どもが読んでもむろんおもしろいだろう、と思う。しかし評者はおとなに、とりわけ小説好きの読者に一読をすすめたい。 二重まぶたにしたくて、小さく切ったセロテープをまぶたに貼(は)って、花は入院中の祖母を見舞う。祖母もふくめておとなたちはだれも、花にとってはどうでもいいようなことで、怒ったり喜んだりしている。花が二重まぶたのために苦労していることなど、だれも気にかけていないのだ。 セロテープのせいか、目の中にガラスの破片がとび散っているみたいにキラキラする。花は屋上に上って夕焼けを見た。空も町中の屋根も窓ガラスも、看板も電信柱もギラギラ金色に輝いている。 その異常な光景は、本当に目のせいなのだろうか。あたりまえのくらしに物足りなさを感じても、そのむなしさはだれにも分かってもらえない。 金色の光の氾濫(はんらん)は、魂の根源的な孤独が見せた幻想だったのだろうか。 これが表題作の主題だが、他に「サーカスのスカート」が秀逸。子どもが主人公なのに学校生活が出てこないのもいい。(斎藤次郎) 産経新聞2001.07.31 |
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