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「三匹のこぶた」の絵本というと、みなさんはどの本を思い浮かべるでしょうか? 私が、まず思い浮かべるのは、山田三郎の『三匹のこぶた』(福音館書店 一九六○年)。写実的なのに、どこかユーモラスな表現のこの絵本は、日本の三匹の…」の定番。で、イギリスで三匹の…」といえば、なんといっても、レズリー・ブルック(一八六二〜一九四○年)でしょう。ブルックは、イギリスを代表するカリカチュアの絵本作家コールデコットの正当なる継承者というべき人。イギリス西部の町バーケンへッドで、アイルランド系の愛情あふれる家庭に生まれたといいます。若い頃に耳を悪くして、大学進学をあきらめ、挿絵画家になることをめざしてロイヤル・アカデミー美術学校に学びました。卒業後、はじめは肖像画家として仕事をしていましたが、"The Nursery Rhyme Book"(わらべ唄の本・一八九七年)の挿絵で一躍注目を浴び、以後、子どもの本の世界で活躍しました。一九○三年には、幼い頃、父から唄ってもらい、自分も二人の子どもたちに唄ってきかせたナンセンス・ソングをもとに、"Johnny
Crow's Garden"(からすのジョニーの庭)をつくりました。 さて、「三匹のこぶた」は、(一九○五年に出されたイギリスの昔話集『金のがちょうのほん』の中の一編。この本には、タイトル作の他、「三匹のくま」「三匹のこぶた」「親ゆびトム」のよく知られた四編がおさめられ、ブルックは、物語と絵の両方を手掛けています。で、注目すべきは、三番目のこぶたが行なうレンガの家作りの場面。なんと、こぶたは一段ごとにきちんと水平に糸を張って、レンガを重ねているのです。まるでプロのレンガ職人さながらに。ブルックが、レンガの家をどうやって造るかを知っていたのは勿論なのですが、絵本にそこまで描くということ。ぶたや狼などのきっちりとした輪郭線による描写の写実性と共に、生活のリアリティを忠実に描き出すというところに、ブルックという画家の本質と魅力があります狼は、さまざまな手段でこぶたを襲おうとするのですが、いずれも失敗。ついに屋根の上の煙突から突入を試、煮えたぎった鍋に落っこち、こぶたの夕飯になってしまうという結末はご仔じの通り。いえいえ、ブルックはさらにすごいのです。最後の頁、こぶたが暖炉の前で、ソファーに座ってくつろいでいます。その脚元には狼の毛皮。暖炉の上には、二人の兄さ んぶたの写真が。ユーモアのセンスに、風刺が少々加わって、絵が物語る見事なエンディングです。(竹迫祐子)
徳間書店 子どもの本だより「絵本、むかしも、いまも・・・、15回」1999/11
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