きのうのぼくにさようなら

ポーラ・フォックス
掛川恭子・訳 あかね書房

           
         
         
         
         
         
         
     
 「きのうのぼくにさようなら」の主人公ガスは、ただいま十歳。五人きょうだいのまん中で、サンドイッチの中身って苦しいな、と思ってる子です。
 でねえ……そのガスのあだなってさ、〃お面〃(ストーンフェイス)っていうのよ。怖くなったりいじめられたりするたびに、ガスは自分の顔から表情を消しちゃうの。
 そうするとまわりは気味悪がっていじめたり、からかったりしなくなるもんで、ガスも最初のうちは喜んでたんだけど、そのうち、お面が顔にはりついて、はずしたくてもはずせなくなったことに気づくのね。おびえても顔に出ないし、楽しくても笑えないし。ガスにもどうしてできるのかわからないんだけど、頭の中でバタンととびらがしまって、カチッとカギのかかる音まできこえるわけよ。そうすると無表情になっちゃうの。とびらの方で勝手にしまるようになってガス自身にもあけられなくなっちゃったわけね。
 これが書かれたのは一九六八年で、えっ、そんな昔なの? と最初は思ったけど、よく考えれば日本の三十代にもこうなってしまってる人っていっぱいいる。二十年引いたら十八歳とか十六歳……と思ったとたんに実感としてどーんとのしかかってきました。
 世界はガスの方向に流れていて、日本はその中でも優等生といえるんです、ああ…。(赤木かん子)
『赤木かん子のヤングアダルト・ブックガイド』(レターボックス社 1993/03/10)

朝日新聞 1989/12/10