北のバゲ

池 敬

青磁社

           
         
         
         
         
         
         
         
     
 どきどきするほどミステリアス、それでいて人々の暮らしや息づかいをリアルに伝えるのが『北のバゲ』(池敬著、青磁社)。東北地方の伝承を題材とする短編集だ。
 バゲとは化け物のこと。幽霊のように湿っぽくない。オカルト風の暗さもない。みちのくの魔物はとてもおおらか。宇宙との会話から生まれた、とでもいうような、すてきな「現代の民話」の数々。
 奈良の大仏をつくり、平泉文化を築いた北上山地の金山。そこには、黄金をめぐるさまざまな伝説がある。だれも入ってはならないと言い伝えられる、燃えるように赤い沢。その谷に住んでいた一つ目の一族がいつしか姿を消してしまった・・・。 ここまでなら、単なる怪談。が、次に出てくるのは、古代の技術では金をとかすのに水銀を使ったという話。ここでわたしたちはいきなり現実に引きもどされる。水銀、ナミマタという連想によって。
 〈命をかけて金と水銀ら生きた人たちがいちのだ〉
 東北の古代にひかれた著者は、実証のために山や川を歩きまわるうち、この北国の風土がもつ魔力にとりつかれたのだという。
 心あたたまる話もある。エロチシズムもある。どの物語からも自然のなかに大きな愛の姿をみる東北の人々のこころ、その天地との交流の深さが伝わってくる。(芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席1991/03/21

テキストファイル化 妹尾良子