きつねのホイティ

シビル・ウエジ夕シンハ

まつおかきょうこ/やく 福音館書店

           
         
         
         
         
         
         
    
 ウエッタシンハさんはわたしの好きな画家の一人です。実際に会ってお話ししても、そのユーモアとバイ夕リティ、次から次へとあふれるように語られるお話の豊かさに楽しくなってしまいます。
 彼女の絵本を読むと、物語が面白いのはもちろんのこと、絵も細部にわたって表情豊かに描かれ、何度みても発見があります。おおらかで有機的な線の動きで、本質を描き出す暖かい個性的な絵には真の豊かさが感じられ、心浮き立つものがあります。
 「きつねのホイティ」は、スリランカの小さな村に住む、三人の元気のいいお かみさんと、村はずれの森の中にすむキツネのホイティのゆかいなお話です。人間をだまして、おいしいごちそうを食べたと有頂天のホイティは、うかれ気分でおかみさんたちの悪口を歌にしますが、それをおかみさんたちに聞かれたからさあ大変。おかみさんたちはキツネに仕返しをしてやろうと知恵をしぼり……。(とてもゆかいな結末に、心から笑ってしまうことうけ合いですが、ここには書かないでおきます。だって、読んだ時のお楽しみがなくなってしまいますから。)
 動物と人間が知恵比べをするモチーフは日本の民話にも通じるものがあります。私は子どものころの一時期、夢中になって民話を読んだのですが、あのころなんでそんなに夢中になって民話ばかり読んでいたのかとふりかえって考えてみれば、ひとつには、簡潔で簡単な言葉、そしてストレートなストーリー展開から浮かび上がるイメージが実にリアルで他の本とはまったく違った魅力をもっていたこと、 そして登場人物や動物が、「力」によってではなく、「知恵」によって問題を解決したり、笑いをさそったりするのが小気味よくなんともいえない満足感を与えてくれたからだと思います。この「ホイティ」の絵本を読んだ時の満足感は、まさに子どものころ民話に求めていた満足感と一致し、その上おかみさんたちもキツネも自然のなかでおおらかにだましあい、おおらかに笑いあうというのが非常に新鮮で、読後、大変幸福な気持ちになりました。
 各ぺージに登場する表情豊かなネコにも注目しながら、おおいに楽しんでほしい絵本だと思います。(米田佳代子
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい」1994/5,6