こども

キヤサリン&ローレンスアンホルト
うちだりさこ訳/ 徳間書店

でてこいミルク!

ジェニフアー・A・エリクソン作/オラ・アイ夕ン絵
うちだりさこ訳/ 福音館書店

           
         
         
         
         
         
         
    
 絵本を声に出して読んでみると、読みやすい文章とそうでないのがあることに気がつきますが、絵を見ながら耳でお話を聞く子どもたちにとっても、聞き心地のよい文章とそうでない文章では、絵本の印象が変わってくるのではないでしょうか? 絵本のような、たとえ短い文章でも(いえ、短い文章だからこそ)、一語一語大切にしていくことがなによりも重要だということになります。
 特に翻訳本の場合、原語の持つ 言葉のリズムや言葉あそび、韻などは、そのまま直訳しても、元の面白さが完全に失われてしまい、時には意味さえ通じない訳文が出来てしまいます。ユーモアの質や言葉遊びの質を変えずに、日本語に「等価交換」す る、しかも、読者である日本の子どもたちが心から楽しめるように -そこには単に言葉を翻訳する以上の、創造力や、日本語に関する豊富な知識や語彙、豊かな感覚が必要になってきます。翻訳する上で最も苦労を要し、逆に言えば腕の見せ所でもあります。訳者志望の方々から「絵本なら短いし、難しい言葉が出てこないから簡単に翻訳できそうなので」と言われたことがありますが、実は「絵本は短くて、簡単な言葉しか使って いないからこそとても難しい」のだと思います。絵やお話がどんなに面白くても、使われている言葉が生き生きしていなければ、本の楽しさが失われてしまうのです。そして、生き生きした言葉で訳すことほど、難しいこともありません。
 今回ご紹介する「こども」と「でてこいミルク!」は、そんな翻訳の難しさをみじんも感じさせないほど自然な、そして生きた日本語で、目でも耳でも楽しめる絵本です。「こども」は子どもの好きなことや、きらいなこと、ポケット の中身や、遊びなど、子どもに関する様々なことをカタログ的に集めた絵本で、どのぺージをひらいても、はじけるように元気な絵と言葉を楽しめること間違いなし! 「でてこいミルク!」は牛のミルクが欲しい都会の男の子が、四苦八苦してとうとうミルクを手に入れるお話ですが、鮮やかな色彩とおおらかな線で描かれた絵が、リズミカルな言葉とマッチして、絵本らしい楽しさにあふれた作品です。まだ読んでいない方、どうぞ、手にとってみてください。(米田佳代子
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい」1995/9,10