子どもの本の森(4)

森の声が聞こえてくるよ

           
         
         
         
         
         
         
    
    


 二年前の秋、私は自宅に家庭文庫を開きました。今では幼児から小学生の子どもやお母さんたちが、楽しく利用してくれるようになりました。
 徐々に地域の方の文庫への関心が高まる中で、「地域に身近な図書館がほしい」という運動も生まれ、仲間のみなさんと郷土の歴史を学んだり、史跡を訪ね歩いたりと「ふるさと」への思いは募るばかりです。
 私がなぜ、地域やふるさとにこだわりをもつようになったのかを考えてみると、まずそこには家族の存在と、わが家を築いてきた先祖代々から伝わる文化や歴史に直接触れたことによってかもしれません。
 わが家は先祖代々の農家で、義父母の汗水流して真摯(しんし)に働く姿をみながら、また農作業の合間のようじゃ(おやつ)のときに語ってくれる話(作物や昔の村の出来ごと、自然の神さんを祭る由縁など)や暮らしを通して、私はほんのわずかでも「農に生きる人々の心」に触れ、知り、学ぶことができたように思います。
 それは、「自然の掟(おきて)にむやみに逆らうことなく、自然の恵みに感謝しながら自然と共に生きる姿」でした。
 『森は呼んでいる』は、荒廃していく森や川や海を守るために「森は海の恋人」を合言葉として、山に植林運動を始めた父親や村人たちの勇気ある姿に、主人公である五年生の森人が心深く感動し、やがて森人の心の中にもいつしか森の声が聞こえてくるのです。
 この物語は、たんに「自然に優しい」とか「川を大切に」とよく川や海でみかける立て札にあるような「ことば」だけにとどまらず、もっと深い視点から、私たちに「自然の大切さや命の重み」を投げかけています。
 村人たちの暮らしの根底には、いつも自然の恵みによって自分たちの命は生かされて、暮らしが守られているんだという謙虚に生きる姿があります。そんな村人たちの中には、荒廃していく森や川から離村していく者もいます。
 しかし、一方では、そんな自分たちの愛するふるさとだからこそ村人自らの力で、森や川や海の自然を回復させようと、運動が生まれてきたのだと思います。
 森人の父親たちの粘り強い活動が村人の共感と支持の輪を広げていくあたりは、今、私たちがやっている図書館づくり運動と重なり、とても勇気づけられます。
 「森と川と海がつながっているように、いつかは、人間の心も、つながっていくよ。ぼくたちと一緒にがんばろーよ」と森人からのエールが聞こえてくるのです。
(静岡子どもの本を読む会 朝比奈和美)

とりあげた本
「森は呼んでいる」(及川和男作、中村悦子絵、岩崎書店)
すすめたい本
「ふるさとは、夏」(芝田勝茂作、小林敏也画、福音館書店)
「故郷」(後藤竜二作、高田三郎絵、偕成社)
「草原のサラ」(パトリシア・マクラクラン、徳間書店)
テキストファイル化日巻尚子