子どもはどのように絵本を読むのか

ヴィクター・ワトソン&モラグ・スタイルズ編
谷本誠剛監訳 柏書房 02・11

           
         
         
         
         
         
         
    

 絵本は、もともと「子どもの本」として発達してきたのだが、近年では若者や女性層などにも、幅広く愛好者が拡がっている。たびたび絵本の特集を刊行している「別冊太陽」は、先頃『絵本の作家たち』を、詩誌「ユリイカ」も『絵本の世界』を二月臨時増刊号で出版した。数年前には、作家や研究者や編集者中心になって絵本学会が設立され、ヴィジュアルなメッセージを伝達するメディアとして、あるいはアートとしての絵本研究もにぎやかだ。
 本書は、その題名が示すように、絵本をアートとして大人の目で読み解いたものではない。ケンブリッジ大学で唯一教育系のホマトン・カレッジで、児童文学や絵本を講じてきた編者らが中心になって、本来の読者である子どもたちと一緒に、絵本という豊穣なメディアの解読を試みたものだ。日本でもお馴染みのバーニンガムの『おじいちゃん』や、アンソニー・ブラウンの「ウイリー」シリーズ、センダックやブリックスの絵本など、具体的な作品を俎上に上げながら、あくまで子どもの「読み」に寄り添って彼らの視覚表現世界に対する鋭敏な理解能力を読み取ってみせる。
 筆者の一人は、絵本の発達史に影響を与えてきた要素として、チャップブックと玩具やゲーム、風刺漫画をあげる。チャップブックというのは、十七、八世紀のイギリスで行商人が売り歩いて庶民に愛好された、木版挿絵付きの粗末な作りの小冊子である。あらかじめ絵本の芸術的正統性を探るのではなく、庶民の大衆的なメディアからの影響を重視することから、子ども読者との共振性や複雑で多様な絵本の特性が見えてくる。そして、絵と文章が相互に影響しあって全く意味合いの違った世界をも浮上させる、現代絵本に特有で多層構造的な遊戯性に、絵本というメディアのポストモダン性を見るのだ。なかなかユニークで刺激的な絵本論である。(野上暁)産経新聞