子どもの本の森

耳からの文学「昔話」聞こう

           
         
         
         
         
         
         
    
    
 子どもの世界は、アニメ映画や漫画雑誌など視覚に訴えるメディアによる影響を、いいにつけ悪いにつけ受け続けています。いい影響はぜひ受けてほしい。
けれども、人から与えられるイメージや物語を、ただ受けとめるだけにはなってほしくないと思っています。
 今、物語を自分自身の画像としてイメージする力を楽しむ場、「おはなしを聞く」という場がとても少なくなってしまいました。語り手と聞き手たちが、ひとつの物語を耳から聞いて、一緒に楽しむ場です。
 物語を聞くとき、ことばは、ひとつずつ受けとめられ、順を追って進んでいきます。実にシンプルなスタイルです。聞く物語は、読む物語と成り立ちが違います。この「耳から聞く文学」として整っているのが昔話です。
 昔話は読むのではなく、聞いてほしいと思っています。ことばの響きの楽しさ、心地よさを含んでいる耳からの文学を、今の映像の時代に生きる子どもたちに味わってもらえたらと願っています。子供が頭の中で描くイメージの方が、その子にとって、その物語にふさわしいと思うのです。
 昔話は人間を的確に描いています。時をへても、国を越えても楽しめる魅力を持っているのが、本当の昔話です。そして、昔話は根底のところで人間と人生に対して肯定的だと思います。このことは、児童文学と呼ばれる子どもの本にもみられる大きな、そして大切な要素だと思います。
 複雑きわまりない現実のなかで生きている大人には、この肯定性が薄っぺらに映ってしまうようです。けれどもこれから生きていこうとする人たちにとって、途中でどんな困難に出会っても、最後によかったと安定した心で物語から出てこられるお話こそ、たくさん出会ってほしいものです。
 おもしろい昔話が山盛りに入っている本をいくつか紹介します。子どもに読ませるのではなく、声にして子どもの耳へ届けてあげてください。次回は、昔話を語って聞かせたとき、子どもたちがどう受けとめているのか、実際の経験も紹介します。(静岡子どもの本を読む会 木内 弥子)

すすめたい本
「子どもに語るグリムの昔話1〜6」佐々梨代子・野村しげる訳 こぐま社 
「子どもに聞かせる世界の民話」矢崎源九郎 編 実業之日本社
「イギリスとアイルランドの昔話」石井桃子 訳 福音館書店
テキストファイル佐藤明子