こいぬのうんち

クォン・ジョンセン 文/チョン・スンガク 絵
ピョン・キジャ 訳 平凡社

           
         
         
         
         
         
         
    

 思わず抱きしめたくなるような美しいこの絵本を開くと、見開きには深い土の色の中に溶けこんでいく虹のような光の微粒子。これこそ一輪のタンポポを咲かせた、こいぬのうんちくんの「愛」なのです! 初めのシーン、小犬が石
垣の隅にうんちをしています。このうんちくんが絵本の主人公。
 雀さえ「アイゴー、きったねえ!」とさげすむ、役立たずで最も汚いものとされる犬の糞ですが、その形象化はとても愛らしく、心惹かれます。身の上話をしてくれた「土くれ」のおじさんも荷車に拾われて行ってしまい、さびしく横たわるうんちくんの前に、春、タンポポが芽を出します。その願いによって自分を養分として土に溶かしこむうんちくん。ラストにはこいぬのうんちがあった場所に微笑むタンポポの花! そこには「こいぬの うんちの あいがいっぱい いっぱい つまっていました」。作者はこの「愛」に万感をこめています。
 この韓国のベストセラー絵本の作者は権正生。すでにこの欄でも長編『わら屋根のある村』『モンシル姉さん』をご紹介した、現代韓国の児童文学を代表するクリスチャン作家です。原作は第一回キリスト教文学賞を受けており、本書はそれを作者が絵本用に書き改めたものです。これは「環境絵本」ではなく、原書の解説を書いている李ジェボクによれば「この世の最も低いところの物語」なのです。貶められた民族の歴史を重ねる見方もあると思いますが、実際に雨に溶けた小犬の糞の脇に咲いたタンポポを見た作者が涙を流しながら書いたという、その最も低い存在へのまなざしの暖かさに打たれずにはいられません。
 すばらしい鄭スンガクの絵、心をこめた 記子の訳も子どもたちを捉えているようです。まだまだ数少ない隣国との真の文化交流の大きなステップとなる出版です。(きどのりこ
『こころの友』2001.03