|
当たり前のことだけれども、絵本の魅力は、何といっても絵の力にある。最近の片山健の絵本を見ていると、なおさらそんな気がしてくる。絵が語る圧倒的な迫力に、ぐいぐいと引き込まれていく。後期印象派の画家たちのような、力強い筆さばきで大胆に絵の具を塗り重ねていきながら、それぞれの場面の情感を鮮やかに浮かび上がらせるのだ。 この作品の場合も、ストーリーはいたってシンプルだが、絵が凄い。片山作品でおなじみのコッコさんが、お父さんとお兄さんと三人で海賊の格好の案山子(かかし)を作り、近所の畑に置いてもらう。コッコさんたちは、案山子が気になるから、ときどき見にいく。夜も、雨の日も、案山子はちゃんと立っている。刈り入れが終わるまでの、案山子とコッコさんたちを描写しながら、郊外の住宅地の畑を舞台に、豊かな自然のドラマが展開する。 季節の移ろいとともに、微妙な色合いに変化する畑の周辺の情景描写が、その場の匂いまでも感じさせ、まるで取りたての野菜のように新鮮だ。作物の成長を虎視眈々(こしたんたん)と見守る鳥たちの姿も、ほとんど一色の単純なタッチで描かれているのだが、動きや特徴を正確にとらえているので、それが何の鳥なのかがすぐにわかる。どの見開きもそれぞれが一枚のタブローを思わせるかのように、濃密で楽しい絵本である。(野上暁)
産経新聞 1996/06/14
|
|