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戦後のアメリカは、数々の青春映画.青春小説の傑作を生み出してきた。映画では「理由なき反抗」 「暴力教室」「ウエストサイド物語」「イージー・ライダー」…。小説では「ライ麦畑でつかまえて」 「チョコレート戦争」。 それぞれの作品が、その時代を的確に写し取りながら、その中で生き抜いていく若者を鮮やかに描いてきた。本書もまさに、そのような小説と言っていい。 主人公は二人の高校生。女の子の名前はディーニー。頭はスキンへッド、小鼻にリングを通し、そこから左の耳に着けた五個のリングに向けて五本の鎖を渡していて、脚には入れ墨という典型的なパンク少女。同級生と寝て、その代わりにピルとマリファナをせしめている。しかしバスケットボ-ルに関しては抜群のセンスを持っている。 もう一人はサム。成績に関しては典型的な劣等生。だが天才的なバスケットボール選手で、地区の最優秀チームのキャプテン。ディーニーとは対照的な、堅すぎるほどの品行方正な青年だ。 この二人がバスケットを通して互いを理解し、愛し合うようになるまでを描いた、と書くと、いかにも平凡に聞こえる。しかし、崩壊した家庭の中で、母親の内縁の夫の性的な暴力におびやかされながら、ドラッグに浸り、 一方で必死にバスケットを続けようとするディーニーと、それをなんとか救おうとするサムの恋愛物語はそう甘くくない。挫折に次ぐ挫折である。 特に下巻、ディーニーが顔面に鎖がめりこむほどの殴打を受けて二十センチ以上も縫うという事件の辺りから、物語はホラーにも似たすさまじい展開となる。確かに下巻の圧倒的な迫力は.夫君キングにも負けていない。時代を生き抜く一人を見事に描き切ったこの作品は、おそらく九○年代を代表する青春小説として、長く読み継がれていくに違いない。 現代アメリカを舞台にした新しい青春小説の誕生である。(金原瑞人 )
福井新聞
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