こねこのぴっち

ハンス・フィッシャー
石井桃子訳 1954

           
         
         
         
         
         
         
     
 『こねこのぴっち』(ハンス・フィッシャー 石井桃子訳 1954)は、あの岩波書店の最初の翻訳絵本シリ-ズの中の一冊です。このシリーズは今見てもすごいと思う絵本がずらりと並んでいますが、この本を初めて見た時に驚いたことをよく覚えています。なんてったってその絵のうまいこと! その頃はリ卜グラフ(石版画)などという絵の手法は知りませんでしたが、今までに見たことのないものだというのは分かりました。
 またお話もね、五匹のうち四匹は子ねこらしく遊ぶのに、五匹目のぴっちだけは「そんな、じゃれるなんてどこがおもしろいの」っていうやつで、アヒルのとこへ行ってマネして水に入って溺れそうになったり、やぎのまねをしてみたり、最後はうさぎたちと一緒に小屋に入って、夜にきつねとふくろうに襲われて、もの凄く恐い思いをしたりするんだ。もちろんぴっちが騒いだおかげでうさきたちは助かったんだけど、ぴっちはその後ショックで熱を出してしまうのよ。このあと日本の本だとさ、「自分で勝手なことをするからよ。ねこはねこでいればいいじゃないの」となる(たぶん)ところだと思いますが、この絵本は違った・・・。みんな、心配するんだよね。子ども心にふーむ。と思いましたね。だって「みんな、とてもびっちが好きなのです」だよ。そうしてびっちを元気づけるための会を開いていぬのペ口がクリームのどっさりのったケーキを運んでくるのですが、そのシーンだけ覚えている人がたくさんいました。おいしそうなんだよ、ホン卜。
 その後に福音館書店が一九六五年に横長の割合大きな、緑がかったカーキ色の地昧〜な『たんじょうび』という絵本を出してくれていたんですね。これは動物たちの飼主であるリセッ卜おばあさんのたんじようびにぺロを中心におたんじょう祝いを計画する話です。この中で薪割りをしていてケガをしたぺロに、おばあさんが優しく包帯をしてくれる場面がありますが、そこだけくっきり覚えている人もいました。子どもってやっぱり優しくされたいんだよね。で、これにも山盛りクリームのケーキが登場するのですが、最後にねこのマウリとルリがおばあさんにあげた誕生日プレゼン卜というのが五匹の子ねこで、その五番目かぴっちだったのです!(赤木かん子
『この本読んだ? おぼえてる?』(フェリシモ出版 1999)