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ひさびさに読みごたえのあるドキュメントに出会った。これは、カ・ル・ヴィ・ゲランドの徹底的な取材をもとに書かれたボストン交響楽団のドキュメントだが、その中心となっているのは、マ・ラ・の第二番「復活」のリハ・サルにおける小澤とチャ・リ・(首席トランペッタ・)との葛藤である。 そもそも指揮者と演奏者というのは、ある意味で敵対関係にあるのかもしれないが、このふたりの場合はそれがあまりに顕著だった。「チャ・リ・の作品へのアプロ・チは非常に情熱的で個人的である。彼にとってマ・ラ・の交響曲は美しい音以上のものである。生と死なのだ……征爾の感受性も同じくらい豊かだが、彼の情感はもっと洗練され、鍛え上げられている。そして彼は楽譜のなかに意味と美を求める」ふたりのあいだの緊張感は、読んでいてこちらの胃まで痛くなってくるくらいだ。 作者はどちらに肩入れするわけでもなく、オ・ケストラのなかで展開される人間ドラマを的確に写しとっている。じっさい、世界の小澤に対する非難や批判も歯に衣着せずでてくる。 超過密なスケジュ・ルのなかで音楽を作る人々のすさまじい世界を描いた傑作。読む方もかなりエネルギ・のいる作品だ。(金原瑞人)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席90/02/04
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