K&P

岡田貴久子著
理論社・1999

           
         
         
         
         
         
         
     
 赤道の北に点々と散らばる、美しい珊瑚礁に囲まれた火山島を舞台に、日系二世の少年ススムを主人公にした、不思議で幻想的な海洋冒険小説である。ススムは十一歳の誕生日に、祖父から譲り受けたカヌー「チェチェメニ号」で、大人も近づかない“死の島”に行く。そこは祖父が生まれ育った島で、今では“封鎖海域”となっていて、「化け物が棲んでいる」とか「息をしただけで死ぬ」ともいわれているのだが、それだけに少年の冒険心をそそるのだ。かつて人が住んでいた頃の夢を見る島、そこで出会った少女の幻影や六本足のウミガメに助けられて、ススムは無事に帰還する。
 十五歳になったススムは、父の妹をたよって、横浜のハイスクールに入学す驍、祖父が倒れたと聞いて、ポルックスという奇妙な少年と島に戻る。しかし、祖父の死に目には会えなかったススムは、父の反対を押しきって、ポルックスと一緒に祖父の遺品を収めに再び“死の島”に向かう。そこで、島に滞留したプルトニウムを浄化する二股の椰子を植え続けているマリアという少女と出会う。彼女はポルックスが捜し求めていたカストルで、二人はMr・K&Pが作り出した戦闘用アンドロイドだったことが判明する。

 “核”という人類が抱え込んだ難問と背中合わせに生きる現代人の苦悩を、神話的なスケールと道具立てで幻想的な世界に染め上げた意欲的な力作であり、現代の黙示録ともいえよう。(野上暁)
産經新聞/1999/10/19