クマに会ったらどうするか

玉手英夫

岩波新書 1987


           
         
         
         
         
         
         
     
 今回は動物の本を二冊。一冊目は『クマに会ったらどうするか』。これは、陸上動物を中心に進化とはなにかを論じた、かなり専門的な本だが、気のきいた例をまじえての説明はとてもわかりやすい。基礎代謝量(動物が目ざめているときの生命を維持するために必要な最小限のエネルギー量)は、体の小さなものほど高く、もしウシのような大型動物がマウスなみに高い代謝速度を持つとすると、体表で発散する熱エネルギーはすさまじく、背中にやかんを置けば、八0度の湯がわくはずだという話をまくらに、ウシなどの消化器の構造と食物との関係、セルローズの発酵分解の説明が続く。
 進化の概念を学びつつ、人間と動物との関係を見直したい人には格好の本といえるだろう。
 二冊目は増井光子の『動物日記』(河出文庫・四八0円)。動物に関する百四十のエピソードがまとめられている。レアという南米産の鳥の巣にはたくさんのヒナがかえるが、ヒナたちはタマゴの中で鳴き合って、孵化(ふか)時期を一致させているらしく、殻越しに「アレッ、君は早いんだね、少し待ってくれないか」などといってるかもしれない、とか、健忘症のダチョウは、ある日突然「食べる」ことを忘れてしまうらしく、六年間も動物園の人たちにエサを口に詰めこんでもらったダチョウ君もいるとか。 楽しく、ときに考えさせられる傑作コラム集。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1987/08/20