雲のてんらん会

いせひでこ作・絵 

講談社  1997

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 時のうつろいとともに刻々と色合いを変えていく空のカンバスに、さまざまな表情を映し出す雲。なんて気まぐれで、なんてドラマチックで、なんて魅力的なんだろう。
 最初のページを開いたときに目に飛びこんでくる朝焼けの空の鮮やかな色合いに、まずうなってしまう。そうそう、この色なんだよな。地平線にまだ姿を見せない太陽の光を受けて、横にたなびく筋雲の色が、あかね色に染まり、万華鏡のように多彩な色彩を弾き出して夜のカーテンがあがっていく。空と雲の物語の始まりだ。
 画家の目は、夜明けとともに空をさまよい、ブルーのカンバスに描かれた、たくさんの雲の物語を写しとっていく。波状雲は空の階段。霧雲は白い海。ひつじ雲は空の牧場。雲海は青のサンドイッチ。澄み渡った青空に、光のプランクトンが浮遊している。まるでカンジンスキーの描いた空の夢想のように楽しい。秋のはじめの夜の浮雲は、空のかくれんぼ。そして雲はまた感情も映し出す。雷雲は泣きたい気持ち。積乱雲は交響楽を奏でる。雲に多彩な感情と物語を込めて、雲の展覧会は見る者の心をさまざまに揺さぶる。同じ時期に刊行されたエッセー集『空のひきだし』(理論社)を合わせて読むと、この絵本の深い味わいと、そこに込めた作者の思いが鮮やかに伝わってくる。(野上暁)
産経新聞 1998/02/10