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暴君ネロの支配する享楽の都ローマ。青年貴族ウィキニウスと、白百合のように清らかな美少女リギアの恋。リギアを守る怪力の巨人ウルスス。キリストの受難と復活を伝える使徒パウロ。キリスト教徒への陰惨な迫害……。この有名な小説を胸高鳴らせて読んだのは高校生の頃。木村毅訳の文庫版でした。 ポーランドの作家シェンキェヴィッチが、世界的ベストセラーともなったこの作品を発表したのは、もう百年以上前の一八九六年。でも今なお新しい物語です。さまざまな邦訳がありますが、正確さと文学性において決定版といえる吉上昭三訳が、このたび美しい装画とともに若い人にも読めるルビつきで刊行されました。 読み進むごとに物語の世界にひきこまれ、ローマの喧噪や、奢侈をきわめた貴族たちの部屋、パウロの話に聞き入る人びとなどが目のあたりにあるような気がします。 ネロの寵臣でありながら、内心では彼を軽蔑しているペトロニウス、高慢な青年貴族ながら、リギアとの愛によって根底から変えられ、信仰に導かれるウィキニウス、狡猾で、権力に取り入りながらも、キリスト教徒の愛の許しにふれて改心するキロンなど、陰影ある人びとの群像が織りなすドラマは、また初期キリスト教の息吹きをも活き活きと伝えています。なにしろペテロのみかパウロも登場し、重要な役割をはたすのですから。 そして、ローマを去ろうとしたペテロは路上で主イエスに会い、「クオ・ヴァディス・ドミネ?」と問いかけ、主の答えによってふたたびローマへとって返します。 沼野充義さんのすばらしい解説によれば、この物語は普遍的でありながらも、また国を奪われ受難の道を歩んだポーランドの歴史が初期キリスト教徒の歴史と重ねあわされているのです。 津田櫓冬さんの装画も見事です。(きどのりこ) 『こころの友』2000.10 |
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