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クララの誕生を中心に、ショイラー家の約一年間の出来事が順を追って描かれている。 フィリップは空想家の六年生の男の子。妹のテレーゼは五年生、弟のパウルは一年生、新聞記者のパパとママの五人家族は、パパがオンボロ小屋とよんでいるくつ箱のような家で、明るく、いきいきと暮らしている。 「赤ちゃんができたのよ、あんたたちに弟か妹ができるわけ」ある日の、ママの特別ニュースは、フィリップの脳裏から離れない。 パパがドアをこわしたり、パウルが事故にあったりと、平凡な家庭にもいろいろな事件が発生する。その中でもフィリップとテレーゼが心を痛めたのは、ママがトキソプラズマ病にかかっていることが判明した時である。赤ちゃんは障害をもってうまれてくると、ママは泣きつづけた。 家族のみんなの期待と心配する中で生まれた女の赤ちゃんがクララである。作者の家族がモデルとあって、ごく普通の家庭の日常茶飯の事柄が鮮明に浮かんで、さすがに臨場感がある。それに加えて我が家にもこんな場面があったという親近感もある。 クララの障害はどの程度か、パウルの心に住みついた善人ゲフェヒナーと悪人シャボットマンはどうなるのか、などなど、ショイラー一家の一喜一憂にどきどき、わくわくさせられる。軽いタッチでさりげなく描かれてはいるが、嘔吐がひどく困り果てている時に、効果てき面の薬をくれたチェコの天使のように、興味深く、考えさせられるところも多い。 クララも退院できて、ショイラー家にもようやく平和が訪れた。クララをいれて家族六人の絆は固く結ばれていくであろう。 クララは小さい手も、足も、ちゃんとそろっていて、片方の目しか見えないが、元気に育っている。(吉田弘子)
読書会てつぼう:発行 1996/09/19
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