クラス1ばん ひらめきルーカス

ジョハナ=ハーウィッツ

安藤紀子訳 偕成社 1989

           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 ごくありふれたアメリカの小学生を主人公にした愉快な物語といえばビバリー・クリアリィの「ヘンリー」シリーズだが、このヘンリーの向こうを張る作品があらわれた。ルーカスの登場だ。
 ルーカスは小学三年生。クラス一のひらめきやで次から次へとっぴょうしもないことを思いつく。めがねをかければいい子になれるかもしれないと考えてわざと目が見えないふりをしたり、落ち葉をもってこいという宿題がでれば庭の落ち葉をふくろごともっていって教室を落ち葉の海にしたり、ルーカスのまわりは笑いがたえない。物語は、ルーカスが三年生の一年間に引き起こした八つのエピソードをつなげている。
 ルーカスの魅力は、なんといっても子どもならではの奇抜な発想と機転がきくことだ。「きょうはぜったいしゃべらないぞ!」は、おしゃべりなルーカスが学校で一言もしゃべらないとクリケットと一ドルをかける。社会科の時間に教科書を読むようにいわれたルーカスは大弱り。とっさにせきこんで水を飲みに外へでてピンチをきりぬける。そして教室へもどったルーカスは太平洋の発見者の名前を答える代わりに黒板に書く。かけはルーカスの勝ちだった。
 「どうしよう! 首がぬけない」は、ルーカスらしさがでた一番傑作なエピソードだ。ルーカスたちはパントマイムを見学する。その際、先生から絶対におしゃべりをしてはいけないといわれる。風船をふくらますパントマイムだが、ルーカスは、息でふくらました風船は炭酸ガスがつまっているのだから空にのぼるはずがないと、パントマイムに興味を示さない。ルーカスは、退屈しのぎにいすの背のあなに首をつっこむ。つっこんだのはいいが、ぬこうとしても首がぬけない。校長先生や担任の先生がやってきて、ルーカスの首にコールド・クリームをぬってどうにか首をぬく。そのころにはルーカスはみんなの注目の的となってしまい、パントマイムを見ている生徒はだれもいなかった。パントマイムがおわってから、ルーカスは先生にひどくおこられる。でも罰として先生が宿題をだそうとすると、ルーカスは一言も口をきかなかったのだから先生との約束を破ってはいない、宿題は不当だと、クリケットがルーカスを弁護する。結局、宿題はなしになる。このエピソードは、著者が学校にお話をしにいったときいすの間に首をつっこんだ男の子がいて、それをもとにしてできたのだという。
 「学芸会にはサーカスをやろう」は、ルーカスの気持がよくでたエピソードだ。学芸会にサーカスをやることを思いついたのはルーカスだが、先生にピエロ役をやりなさいといわれてがっかりする。ルーカスはクラスのおどけ者だが(本書の原題は「クラスのおどけ者」)、実際にピエロをやれといわれるとやりたくないのだ。ルーカスは司会役がやりたかった。ルーカスは司会役のせりふを全部おぼえる。学芸会の日の朝、司会役の子が熱をだして、ルーカスは念願の司会役をやりサーカスは大成功におわる。
 どのエピソードもひらめきが早くクラスの人気者のルーカスの姿を生き生きと伝えている。ルーカスの個性がつよく、エピソードは一見ばらばらのようだがそうではない。三年の最初に先生から授業態度が悪いという手紙をもらったルーカスが一年かけていい子になるよう努力するという、つながりがあるのだ。ルーカスの態度がよくなるにつれて、意地悪だったクリケットが親切になるというおまけもついている。また、ルーカスがこれほどのびのびしていられるのにもわけがある。ルーカスにはいたずらっ子のふたごの弟がいて、両親はルーカスの細かいことにまでは手がまわらないのだ。 今、学校ものというと、いじめをはじめ深刻なテーマを扱った作品が多い。そのなかで、明るい笑いをさそう本書は、読む者にほっとした安らぎをあたえてくれる。(森恵子)
図書新聞 1990年2月3日