クリスマスのまえのばん

クレメント・C・ムーア文  ウィリアム・W・デンスロウ絵

わたなべしげお訳 福音館書店 1996

           
         
         
         
         
         
         
     
 この時期になると、児童書売り場にはサンタクロース絵本がどっとあふれる。だが、多くは安っぽい「夢」の押し売りだ。サンタクロースその人を本当に見たものはだれもいないのだから、どう描こうと勝手じゃないか、と言ってしまえばそれまでの話。空想上の人物だって、描きようによっては、魅力的にもなるしバカバカしくもなるのだ。 
一九〇二年にウィリアム・デンスロウが描いたこの絵本は、サンタクロースの原イメージを、あざやかに生き生きととらえた傑作である。テキストはもちろん、クレメント・ムーアの『セント・ニコラスの訪れ』である。ムーア教授がわが子のために(たしか教授は当時七歳から生後八カ月までの六人の子持ちであった)この詩を書いたのは一八二二年のクリスマス・イブだったという。この詩こそヨーロッパ各地の聖ニコラス伝説を総合し、今日のサンタクロースの原型を決めたものであった。 
デンスロウは、コカコーラの宣伝マンになりさがるまえのサンタを、ムーアの詩に忠実に、そしてなによりも子どもを喜ばせ、子どもとともに喜ぶために一冊の絵本の中に奔放に描き出す。 
原書の色彩を忠実に再現したらしい印刷も、少しももったいぶらない訳文も極上。(斎藤次郎)
産経新聞 1996/12/13