キョーフのちびっこ転校生

ナタリー・ハニーカット

立石光子訳 さ・え・ら書房 1990

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 新学年が始まって、今年はがんばるぞとはりきっている子どもたちも多いにちがいない。アメリカの小学生ジョウナもその一人で、ジョウナは「だれよりもすばしこくて、頭がよくて、しっかりした三年生になるつもりだった。」
 ジョウナがいい子になろうと決心したのは、兄さんのように自分のペットがほしいからだ。お母さんは、自分のことが自分でできるようになったらペットを飼ってもいいという。これは、すぐ気がちって、何をやっても時間がかかる、クラスのどんじりのジョウナには、たいへんな大仕事だ。
 物語は、毎日のエピソードをつなげながらジョウナの成長を追う形を取るが、作者はここにもう一人ユニークな転校生をからませる。一年生みたいに小さい体に戦闘服を着て、カラテをつかうグランビルだ。グランビルにひっかきまわされて、ジョウナの計画はめちゃくちゃ。グランビルとジョウナのつながりとジョウナのペット獲得計画が作品中で同時進行していく。
 新学期の最初の朝、一大決心をしたジョウナは、一時間も早く家をでて学校に一番乗りする。でも、トイレにいきたくなって、席についたのは結局ビリ。おまけに隣の席には仲良しのロビーでなくグランビルがすわる。自己紹介ゲームで、グランビルの体が夜光ると紹介してクラス中大笑いとなるし、夏休みの作文は一行半しか書けずジョウナだけ宿題となる。ジョウナはまるで「車にひきにげされたような気分」だ。
 一週間たって、がんばってはいるがジョウナの勉強はあまり変わりばえしない。一方、家が近くでしょっちゅう物かげからカラテのかまえでとびだしてくるグランビルに、ジョウナはもうがまんできない。レイシー先生はジョウナを好きだからいたずらするのだというが、このままではペットも飼えなくなるとジョウナはグランビルをやっつける作戦をたてる。ガムを使って、グランビルのばけの皮をはいでやろうというのだ。
 この作戦に関連して事件が二つ起こる。ジョウナは近所のロゼッティさんに野菜に水をやる仕事をたのまれていたのだが、作戦をたてるのに夢中になり水をだしっぱなしにして野菜を水びたしにしてしまう。ジョウナは勇気をだしてロゼッティさんに謝りにいく。ロゼッティさんは快く許してくれる。
 もう一つは、動物の習性についてのレポートだ。書きたくないレポートにグランビルと名前をつけた気味わるいハエを描いたのをみつかってジョウナはレイシー先生に呼びだされる。ジョウナはすべて終わりだと観念するが、先生はグランビルのことにはふれず、レポートを書かないわけをききジョウナの考えをわかってくれる。おまけに、授業中気がちってしまうのをジョウナが心配していると知ると、アインシュタインもそうだったとジョウナをはげましてくれる。二つの事件でジョウナは自分に自信をもつ。
 さて、グランビルをやっつける作戦はどうなったかというと、作戦は裏目にでて、ジョウナはグランビルと仲良くしなければならなくなる。でも、グランビルがいじわるするのはジョウナを好きなためで、戦闘服とカラテは体が小さいためのはったりだとわかり、ジョウナはグランビルと親友になる。グランビルの家で子ネコが生まれ、もうすぐジョウナは念願のペットが飼わせてもらえそうだ。
 作者はいじめの問題をとりあげた『目に見えないリサ』で高い評価を受けたそうだが、この作品でも、ジョウナやグランビルの気持ちをよくつかんでいる。ジョウナを秀才の兄とは比較せずジョウナはジョウナとしてみてくれ、グランビルの転校生としてのつらさもわかる暖かいレイシー先生は作者の分身だろうか。また、暖かさと共に、ジョウナの失敗をいいふらすジュリエットをグランビルがやりこめる痛快な場面では、ユーモアも感じられる。
 ジョウナのがんばりとジョウナとグランビルの友情に拍手!(森恵子)
図書新聞 1990年6月2日