吸血鬼ドラキュラ劇場

高橋 康雄


           
         
         
         
         
         
         
         
     
 暑い季節に恋しいものは、なんといってかき氷(?)と怪談。そこで今回は、コワイ話をX倍楽しむためのちょっと風変わりな一冊。『吸血鬼ドラキュラ劇場』(高橋 康雄著、新宿書房・2800円)を。
 マントをぱっと広げたコウモリを思わせるスタイルのドラキュラ伯爵は、映画やマンガのキャラクターでおなじみだ。が、この造形、実は小説『吸血鬼ドラキュラ』の作者ブラム・ストーカー氏が生んだもの。
 伝説を下敷きに、この作品がロンドンで書かれたのは、折しもリリエンタールのグライダー飛行など空飛ぶ夢が成熟した時代。そんな十九世紀末のふんいきが、バットマンの原型になったあのスタイルを生みだしたのだろう、と著者は推測している。
 こんな具合に時代背景にも触れながら、本書は原作のストーリー展開に従って、小説のいたるところにちりばめられたキー・ワードを、文献を引きながら読み解いていく。
 鏡、ジプシー、漂流船、逢魔(おうま)が時・・・。どれも、なんだかドキッとするような響きを持つことばだ。これらのことばが紡ぎ出すイメージの世界は、トランシルバニアの山奥から世界最大の都市ロンドンへ、そして現代日本にまで続く。このスリルたっぷりの時空旅行に、ぶらっと気軽に散歩するような足どりで案内してくれる本だ。 (芹沢清実)
朝日新聞ヤングアダルト招待席 1991/08/11

テキストファイル化 妹尾良子