12歳、ぼくの夏

江崎雪子/作
いせびでこ/絵 ポプラ社 1994

           
         
         
         
         
         
         
     

 両親の離婚、そして再婚。子どもは、自分の頭の上でおこるこのような状況に、ただ流され、振り回される。どんなに幼くても、その小さな心は傷つく。この物語の主人公、純もそんな少年である。父親に捨てられたという思いを秘めて、今は元気に母親と山塁の村に住んでいるのだが、ある日山の上の空き家に越してきた北山という男の人に出会う。彼もまた、子どもを死なせてしまったという重荷をしょっている。純は、理科の教師だったその人に、天文観察や勉強を教わり、胸の奧の痛みも話していく。そして中学生になった純は、幼いときに突然父の元から母の元へとやられた時の事実を確かめに、父親を訪れる。そんな折、純の母親と北山との再婚話が噂される。「どうして大人は自分を抜きにして事をはこんでいくんだ」信頼していた人に裏切られた怒りでいっぱいの純は、また苦しむことになる。
 この物語は、12歳という思春期の入り口にたった少年の成長を描いたものであるが、表紙のセミの羽化の絵が、まさにそれを象徴している。一人の人間としてまわりをしっかり見つめ、ある日殻を破って自分深しの旅にとぴだす。そんな少年の姿を自然と絡めながら綴った作品である。(M)
箕面市学校図書館司書連絡会発行「教職員むけおたより『L-メール』」1999/07