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絵本とはいえ三百ページの大冊である。十四歳の少年の根の深い欝屈(うっくつ)を、エピソードを積み重ねるようにして丹念に描き、そこからの脱却の道を探り出すには、これだけのページがどうしても必要だったのだ。 会社員の父親が突然家出をしてしまい、そのことでクラスメートにからかわれたヨシオは、ロッカーからモップを取り出し、逆襲に転じる。そのあげく教室中の窓ガラスを叩き割ってしまった。そして、不登校。 「学校にいるときのおれは、いったいなんなんだ、とヨシオは考える。(中略)学校に籍があるというだけの“生徒モドキ”じゃないかと。なにもかもがあいまいで宙ぶらりんの状態におかれているヨシオには、自分の存在さえもニセモノなのではないかと思えてくる。」 ホンモノの自分を見つけるためのヨシオの苦闘が始まる。だが、孤立無援というわけではない。やさしい祖父母もいるし、一年先輩のガールフレンドもいる。そして、町をさまよい歩くタウタウさんとよばれるなぞの男が、しばしばヨシオの危機を救ってくれる。 深刻な物語なのだが、陰気ではない。底のほうに優しくあたたかい何かが流れていて、それがヨシオをも読者をも勇気づけてくれる。白木の板に描いたらしい全ページカラーの絵も美しい(斎藤次郎)
産経新聞1998/12/29
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