10歳からの量子論

都筑卓司

講談社ブルーバックス 1987


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 『マックスウェルの悪魔』(講談社ブルーバックス)を読んだことがある人ならもう承知とは思うが、都筑卓司は魔法使いのような人である。最高に難解な科学知識を、大学生のみならず、中学生や高校生にもわかるように説明してくれるのだから。
 この人が今度、最高に難解な現代物理の量子論をなんとも明快に解説してくれた。それがこの『10歳からの量子論』。
 「あら、わたし文系よ」などといわず、どうか一度、立ち読みでもいいから、めくってみてほしい。めったやたらに面白い本なのだ。 光は観察の方法によって、波の性質を示すこともあるし、粒子の性質を示すこともある、という光の話から始まり、あれこれ光についての実験を紹介したあとで、「ものに当たるまでの光とは、全く知られざるものなのである。そうして、それを知られざるものとして処理していく考え方こそ」量子論のユニークなところなのだ、と量子論のおおまかな概念が紹介され、そのあと「現代物理をつくった巨人たち」のエピソードをまじえつつ、原子構造や電子の発見、そして不確定性原理から陽子、中性子へと話は進む。
 心配はいらない。難解な数式は出てこないし、なにより、実験による新しい証拠をまえにころころ変わっていく理論の変遷と大胆不敵な仮説は、なみの推理小説をはるかに超えて面白い。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1987/12/20