17歳のランナー

草薙 渉著

集英社 1993

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 『草小路鷹麿の東方見聞録』でデビューして以来、『鳩約(きゅうやく)聖書』『ひるがえる一旗』と、ファンタスティックな設定とユーモラスな文体で青春物を書き続けてきた草薙渉の新作『17歳のランナー』(集英社・1,100円)がまたおもしろい。「青春とか人生とか、そういう大袈裟な言葉には、僕はどうにも馴染むことができなくって……」という主人公のツトム、体育の時間に百メートルを走ってみたところ、なんと10秒を軽く切っていたことが判明するところから、この物語は始まる。といって、スポ根物に発展するわけでもなく、一大青春ロマンの花が咲くわけでもない。ツトムはツトム。それまで入っていたテニス部をちょっとお休みして陸上部に移るものの、オリンピックを目指しながら、いたってマイペース。 あかねとの恋愛もマイペース。「男と女なんて、簡単にわかりあえるし、また簡単にわからなくなる……。だからとりあえずは、『今』を積み重ねていくしかないんだ」「今」を積み重ねて、どこまで走れるか? 読んだ後、むしょうに走りたくなる小説。(金原 瑞人)  
                     朝日新聞ヤングアダルト招待席 1993.5. 30
テキストファイル化 内藤文子