ザンジバルの贈り物

マイケル・モーバーゴ

寺岡たかし訳 BL出版 1995/1998

           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 亡くなったおばあちゃんが遺してくれた、日記に書かれている、彼女の少女時代の出来事。という枠物語です。
 イングランド南西にある小さな島が舞台。わずかな牧畜や農業と漁で日々をしのぐ生活。時々ある大きな実入りといえば、船が島の近くで座礁したとき、船荷をいただくこと(もちろん船員は助けますが)。
 そんな貧しい島の少女が主人公。彼女、船に乗りたくてしょうがないのですが、「女はギグには乗れないんだよ。いままでもためしがないからな」。
 双子のビリーは男だから、乗れるっていうのに!
 メイばあちゃんは、「女にだって、男にはできない仕事がいっぱいあるんだからね」と言うけれど、「そんなのは私の仕事ではないって気がする。やっぱり、どうしてもギグの漕ぎ手になりたい。いつか、きっとなってみせるわ」。
 しかも、その乗れるビリーは島に嫌気がさし、出て行きます。落ち込むお父さんとお母さん。
 大事な収入源であった、牛が嵐で死んでしまう。
「もう、わたしたちにできることは、せいぜい、難破船がやってきて、その救助活動であるていどの分け前が得られることを期待して、お祈りすることしかないって。だからわたしも、心からそう願って、難破船がやって来ますようにって、いつもお祈りしているんだけど」。
 そして、なんと難破船が。「わたし」も女であるにもかかわらず、船を漕いでそれを救いにいくことに!「これまでの人生のなかでいちばん望んできたことが、まちがいなくいま実現しているんだわ。ついによ。ついに、ついに!」
 さて、難破船によって得た物は、「わたしたち、ずうっと難破船がやってくることを祈りつづけてきた。だけど、それがほんとうになるなんてね。それも、こんな難破船とはね! まさに奇跡が起こったとしか考えられないんじゃない?  壊れた家を建てなおしたり、ボートを修繕したりする木材もたっぷり補給できたしね。ミルクを出してくれる牛もいるし、わたしたちと牛が冬を越すのに十分どころか、春蒔き用の種までのこせるくらいの穀物だってあるし。それに、ラム酒だって、お父さんに言わせれば、みんなを、それこそ死ぬまで、ずうっと幸せな気分のままでいさせてくれるほどたっぷりあるなんてね」です。
 そして、メイばあさんの一言は、「奇跡なんて起こるものじゃない、何かが起こったとすれば、それは何者かがそうさせたのさ、それが自然の摂理ってものなのさ」
 この「何者か」が何者かは、物語の中でどうぞ。
 今世紀初めのちょっと珍しい生活と、主人公の前向きの明るさが楽しめる一品。(ひこ・田中) 
メールマガジン 1998/05/25