3びきのかわいいオオカミ

ユージン・トリピザス文/へレン・オクセンバリー絵

こだまともこ訳/冨山房


           
         
         
         
         
         
         
     
 「3びきのかわいいオオカミ」という題名を聞くと「あれあれ?」って思いませんか? そう、このお話は「3びきのこぶた」と同じように、3びきのオオカミが広い世界にでて、おうちを建てるところから物語が始まります。「なるほど、ぶたとオオカミが入れ替わったお話だな」と得心して絵本を読み進めると、読者はここでまた、「あれあれ?」と思うことでしょう。だって、「こぶた」は3びきそれぞれ「わらのおうち」「木のおうち」「レンガのおうち」を建てるのに、オオカミは最初からレンガのおうちを一軒だけ建ててしまうのですから。
  このオオカミたち、いたって現代的で、レンガのおうちが「わるいおおブ夕」にハンマーで壊されてしまうと、次はコンクリートのおうちをつくります。「オオカミたちは、昔話のこぶたよりかしこいな」と思っていると、このおうちもやっぱりおおブ夕にこわされてしまいます。「コンクリートでだめなら、あとは何でつくるんだろう?」と思っていると、オオカミたちは鉄板でできたおうちを建てます。しかもドアにはテレビつきのイン夕ーフォンまでついているハイテクのおうち。「これなら、だいじょうぶ」と思っている読者はまたまたがっかりすることになります。だって、「わるいおおブ夕」はこの強固なおうちさえ、ダイナマイト(!) でふっとばしてしまうのです。
 「こんなに近代的な家でもこわされちゃうなんて、オオカミの運命やいかに?」という読者の心配をよそに、かわいいオオカミたちは、みごと次のおうちを建てて……。
 「さんびきのこぶた」のものがたりを知っているこどもならもちろん、知らないこどもでもドキドキしながら楽しめる絵本です。筋の流れだけ追っていっても十分楽しめるし、3びきのオオカミたちの表情やわるもののブ夕の表情、背景にいたるまで、丁寧に描かれた納得のいく絵も…オクセンバリーの線の柔らかさ、確かさ、色のナチュラルさは、飽きがこない明快さを備え、見る者に安心感を与えてくれます。そして、大人が勝手に深読みしていけば、「ふむふむ、現代文明の行き着く先を暗示した絵本かな」などとうがった解釈をして楽しむこともできます。
 つまらないパロディが多い中、この絵本は一つの世界を楽しく構築していると思います。昔話がそうであるように、大人も子どもも、なんどでも楽しめる絵本だと思います。(米田佳代子
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい」1994/7,8