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主人公は、六年生の少女・芽衣。父親の突然死で、同じ市内の川をはさんだ西から東へ引っ越した。新しい町内を自転車で走りながら写真を撮っていると、轢き逃げされた猫におおいいかぶさって泣くモリ少年に出会う。彼は前の家の近所に住んでいて、芽衣より二歳年下だ。その事件があった翌日から、モリくんが家から姿を消す。誘拐かどうかわからいけど、公開捜査となったため、姿を見かけたらすぐに知らせて欲しいと、学校で担任からモリくんの写真が載ったプリントを手渡された。 芽衣は、新しい学校で知り合った友だちと三人で、モリくん捜索のために街中を回りビラを貼ったり配ったりする。しかし何だか、そうすることがモリくんを現れにくくしているのではないかと思い始めた芽衣は、今度は人目を避けてビラを剥がして歩く。芽衣の背後で〈さらわれる〉という声が聞こえる。それは、モリくんの声なのか、芽衣の幻聴なのか。作者は、ミステリアスな展開の中に、子どもたちの繊細な感受性を巧みに浮かび上がらせる。周囲が大騒ぎしている中、モリくんを匿って、一緒に旅して歩いたアメリカ帰りのジャズが好きな独居老人の特異な生き様。子どもの失踪を必死で探そうとする学校や地域の善意と子どもへの眼差しを、まるで鬱陶しいかのように姿を眩ますモリくんという存在。揺れ動く少女の日常をつぶさに追いながら、大人世界が表層的に思い描く子ども観の彼岸に、日々変容を重ねる子どもならではの世界をしなやかに屹立させ、同世代のデリカシーと共振する作品だ。(小学上級から)野上暁(産経新聞) |
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