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ちょっとうれしい本に出会った。『里山大百科−いちばん身近な自然の四季』である。 野外に歩きにでかけると、身近な自然のなかにも、面白いものが結構たくさんある。へびだったり、鳥だったり、虫こぶだったり、木の実だったり、きのこだったり。自然が作り出す形態の面白さ、生態の神秘に、いつもいつも、驚かされる。歩きはじめたばかりのころは、「面白いもの」を見つける目がぜんぜんなかったから、一緒に歩く仲間が「あっ、あんなものが!」と言いながら駆けていく後をおいかけ、「ほら、あそこにあるよ」と言われて初めて気がつくしまつだった。今だって、「キノコ目」(素人にはただの落ち葉のじゅうたんにしか見えないところのあちこちに、たくさんのきのこを見つける熟練した目のことを、仲間うちで「キノコ目」と呼んでいる)をした友人や、「ヘビ目」をした友人のすばやい目には比べようもないけれど、歩く回数が増えれば増えるほど目も発達してきて、こんなわたしでも、ちょっとずつ「虫こぶ目」とか「木の実目」とか「キノコ目」とかを持つようになってきた。さて、目を持つようになってくると、自然の中を歩くのが、ますます面白くなってくる。そして、見つけるだけではなくて、名前や、生態や、食毒や、その他もろもろを知りたくなってくる。 そして、同じフィールドに毎年出かけるようになると、定点の様々な変化にも敏感になってくる。 里山歩きが楽しくて楽しくてたまらなくなってきた時、この本に出会った。この本は図鑑ではない。本のそでに「‘里山’とは、大自然と人間の暮らしの間にあるいちばん身近な自然のこと。雑木林、田んぼ、小川、トンボ、カブトムシ…日本人なら誰でも、幼いころに、また夏休みに田舎に行ったときに、親しんだ‘日本人の心の故郷’ともいうべき自然である。その里山が開発で次第に失われつつある今、風景ばかりでなく、さまざまに人間生活とつながりを持つ‘里山生態系’を残したいという願いから、この本は生まれた」とあるとおり、身近な自然の中のすべてがここに、数々の美しい写真と、素人にも大変わかりやすい文章と共に描かれている。田んぼのとなり、人家のとなり…人間界と混じりあうところにある自然の豊かさを、季節ごと、テーマごとに、見せている。写真の並べ方見せ方も秀逸で、読者の心をとらえて離さない。A4見開きの大きな画面の迫力ある写真はもちろんのこと、小さい写真の一点一点に「里山目」を持つ著者たちの感動と愛情があぶれており、その自然の魅力を余すところなく伝えている。ところどころにあるコラムも、大変わかりやすい文章で面白い。野外に行く 親子には特に、ぜひ見て読んでほしいと思う。そういえば、子どもたちに人気のアニメーション「となりのトトロ」の舞台も、東京近郊の里山である。ここまで書いてきて、冒頭の文章を取り消す気になった。「ちょっとうれしい本」ではなくて、「かなりうれしい本に出会った」と。(米田佳代子) |
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