世紀末日本推理小説事情

新保博久

筑摩書房


           
         
         
         
         
         
         
     
 異常としかいいようのない読書量。それをささえている過剰な愛情!
 相手が推理小説だからいいいようなものの、普通の女性なら、悲鳴をあげて逃げだすところだ。
 こんなふうにはじめると、この本は、『ドグラ・マグラ』か『虚無への供物』のような、おぞましくもあやしい怪作なのではないかと思う方もいるかもしれないが、心配はご無用。読みやすくて、しゃれた推理小説評論である。取り上げているのは、昭和二十年代生まれで五十年頃から活躍をはじめた作家たち。いってみれば新しい流れを追った感じになっている。
 あつかっている作品は膨大の一言。拾ってきた資料の数もさることながら、作者自身の作成した資料も凝っている。たとえば連城三紀彦の作品における傍点の数の変遷、赤川次郎の作品の主人公の分類、北方謙三の長編における主人公と著者の年齢の相関表など、さすがである。
 そもそも切り口がいい。たとえば赤川次郎と連城三紀彦を逃避という視点からさぐってみた「錬夢術師たちの孤独」、笠井潔と北方謙三のふたりの作品を、元全共闘という視点からさぐってみた「元闘士は小説の革命をめざす」など、なかなかのものだ。
 推理小説を優しくみつめる作者の目はたしかである。(金原瑞人

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