せかいいち うつくしい ぼくの村

小林 豊

ポプラ社

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 アフガニスタンを舞台にした絵本である。扉を開くと、赤茶けたなだらかな斜面に建つ家々と、その隙間を埋め尽くすように、一斉に咲き誇るスモモや桜や梨の薄ピンク色の花と柔らかな新緑が目に飛び込んでくる。よく見ると、画面の隅々にまで、農作業をしたり田舎道を行く人々やロバや、春先の村人たちの日常が、米粒のように細々と描き込まれている。日本の春とは一風違った、のどかで平和なアフガンの村の暮らしが、パノラマ風に眺望でき、そこに様々な物語が感じられて楽しい。
 小さな男の子のヤモは、お父さんに連れられて、ロバのポンパーと一緒に初めて町へ果物売りに行く。戦争に行った兄さんのかわりに、お父さんの手伝いをするのだ。初めて見る賑やかな町の光景。様々な商店や物売り。屋根付きバザールに、ところ狭しとひしめき合う色々な店。お父さんと入った食堂。昼下がりのモスクの前を行き交う人々。横長の画面に、丹念にビッシリと描き込まれた商店や町の人々の暮らしぶりを見ていると、町のざわめきや、人々の会話や、物売りの声や、モスクから流れるお祈りの声が聞こえてくるようだ。果物を売ったお金で一頭の小羊を買って、ヤモたちは村に帰る。しかしその年の冬、村は戦争で破壊されて今はもうない。絵の豊饒な物語り喚起力を強烈に印象づけられる、絵本ならではの作品である。(野上暁
産経新聞、1996、3、1号