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小学校時代の一時期、私は昔話が大好きで、絵本であれ挿絵のない昔話集であれ、「昔話」「民話」という言葉がついた本を手あたり次第に読んでいました。現代の作家が書いた物語も同時期に面白く読んではいたのですが、昔話には特にのめりこんでいたのです。 中でも動物と人間が自由に会話をして助け合ったり、知恵比べをしたり、動物に連れられてその世界に旅したりする話に惹かれていました。自然界と人間界を垣根なしに行ったり来たりできる、密接につながった一つの世界に、魅力を見いだし、無意識のうちにあこがれていたのかもしれません。 さて、今回ご紹介するのは、やはり動物と人間の不思議な交流を描く、シベリアの昔話『まほうのたいこ』です。 友だちと一緒に、食べられる植物を探しにツンドラにやって来た少女が、一人霧の中で迷い穴の中で眠ってしまったところを、人間の女の人の格好をしたクマに助けられます。そして夏のあいだじゅうクマに親切にしてもらい、その穴ですごすのですが、やがて秋になり、クマが冬眠しなければならない季節になると、食べ物が出てくるまほうのたいこをクマにさずけられて、村へと帰ってくる……というのが物語の骨子です。 この物語の中のクマは、少女に恩があるわけでもないのに、迷子になった少女を助け、毎日新鮮な食べ物を運ぶなど、とても親切にします。その上、最後には少女に、特別な力を持つたいこまでさずけ(たいこを手渡す時に、クマはたいこの使い方も伝授します)、自ら村の入口まで送っていきます。 ある日自分の巣穴に断りもなく潜り込みねむりこんでしまっていた、何の恩義もない少女をなぜクマが助けたのか、は語られていませんが、何かしら理由(恩返しなど)があって動物と人間が交流する日本の昔話を読み慣れている私には、クマがごく自然に少女を受け入れていく場面がとても新鮮に思え、理由が書かれていない分かえって想像力をかきたてられました。そして、後半、別れの場面で女の人がクマの姿にもどって帰っていくところでは、しみじみとした感動さえ覚えました。 さて、人間の村にもどった少女は、自分のために開かれた祝いの席で、クマから教わったとおりにたいこをたたき、みんなにごちろうをして喜ばれるのですが、そのくだりを、「人間はいつも知らないうちに、自然界から豊かな贈り物を授かっているのだ」と解釈するのはうがちすぎでしょうか。 こんな個人的な解釈はともかくとして、ひとことひとこと吟味された、美しいことば、そして一枚一枚、心を込めて描かれたナイープアート風の絵は、この絵本を開く人それぞれの想像力を大きくかきたててくれることでしょう。(米田佳代子) 徳間書店「子どもの本だより」2001年1月/2月号 東新橋発読書案内「昔話の魅力」 テキストファイル化富田真珠子 |
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