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あなたは有名なジャズのスタンダード・ナンバー「サマータイム」を知っていますか。たとえ知らなくても、そのメロディーが耳に聞こえてくるような、そんなお話が上巻の表題作「サマータイム」です。 これは17歳の進が、六年前の夏を回想するところから始まります。交通事故で父親と片腕をなくした二つ年上の少年広一との出会い。右手だけで弾く「サマータイム」のメロディーとともに、広一に強く惹(ひ)かれる進。広一に自転車を教える、進の一つ上の美しく勝気な姉、佳奈。夏の終わりとともに訪れた突然の別れ。これらがとても爽(さわ)やかに描かれています。 下巻の「九月の雨」も、広一のジャズピアニストの母親が弾く「セプテンバー・イン・ザ・レイン」がバックに流れています。 「俺はわずか16年の駆け出しだが、すでに二つの人生を生きてきた気がする。大げさかな。でも、そう思わないと、今がツライ。あれはあれ、これはこれ、たぶん俺は年にしては、いやらしくクールに育ってるんだ」 そんな高校生の広一が、母親とその恋人とのかかわりを通して、自分自身を見つめていく過程を描いています。 「四季のピアニストたち」はこのほかに、佳奈を主人公にした「五月の道しるべ」と「ホワイト・ピアノ」が収録されています。 四編ともピアノをモチーフにして四季をつづっており、子供から青春期までのきらめくような日々を鮮やかに描き出しています。
(ひ)=静岡子どもの本を読む会
テキストファイル化中島千尋 |
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