進化の鎮魂曲

豊田有恒

徳間書店

           
         
         
         
         
         
         
     
 これは進化をテーマにした七つの短編を集めたものだが、なかの二編が抜群におもしろい。 ひとつは「大破局」。これは六千五百万年前の世界が舞台で、ホモサピエンスそっくりのドロマエオサウルスという直立歩行する、知能をもった中型恐竜が群れをなして計画的に、体重三トンという恐竜アナトサウルスをしとめる最中に道具の使用を覚えるというストーリーが語られ、それと同時に「なぜ恐竜は絶滅したか」についての様々な学説が時代順に紹介されてゆき、このふたつが最後にひとつにまとまるという構成になっている。構成もいいが、感心させられるのは語りのうまさだ。最先端の科学的知識をちりばめながら、この世界をあざやかに活写し、ときに脱線して「のちに現れるホモ・サピエンスの故意か、無知か、恐竜時代の植物相は、誤って石炭紀のように描かれることが少なくない……。007ことジェームズ・ボンドが、原始ケルト社会で活躍するような、妙な時代考証になってしまう」とコメントをいれて、アナトサウルスの説明にもどり、またストーリーにもどるといった調子。この口調についのせられてしまうのだ。
 もうひとつ楽しいのが「鯨が海へ行った日」。これはBC六千五百万年の鯨からAD二千年までの鯨の進化と絶滅の話を同じ手法で書いた傑作。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1988/03/06