進化論

芝田 勝茂・作
講談社 1997.7

           
         
         
         
         
         
         
     
 人類学専攻の大学生の祐介は家庭教師先の美少女、美紀に好意をいだいているものの、気持ちを伝えることすら出来ずにいた。ところが、祐介との子供を妊娠したと美紀が主張し始め、彼女の身体もその言葉を裏付けるように変化し始める。愕然とする祐介だったが、政府が染色体異常胎児狩りを開始し、彼は美紀と共に逃避行に旅立つ。そして美紀が出産したのは、超能力をそなえた「進化人類」だった。地球環境と共生する能力を持った彼らこそ、人類に代わる地球の正当な後継者であるという説を立てた祐介は政治活動に飛び込み、環境問題に敏感になっていた人々の共感を集めて、大きな政治勢力を築く。
 それと共に彼は未来の自分を夢みるようになった。そこでは彼に、いったい何が起きたのか、人類と進化人類とは共存共栄など出来ない存在であるとする組織に身を置き、実子を含めた進化人類を抹殺すべく武力さえ行使していた。そしてついに進化人類との最終戦争を迎えた未来の祐介は、自分と美紀が進化人類の父母となった理由を知り、ある決断を下すことになる。
 本作品の「進化人類」とは、現人類のありように絶望し、「大人」へと成長することを拒否し、我々とは異なった存在になりたがっている子どもたちの願望の実現の比喩であると言える。進化人類の存在があぶりだすのは旧人類の問題点や限界である。   
 子どもたちはもはや大人社会に加入したいとも、親と同じようになりたいとも思ってはいない。彼らの視線の先には、大人たちが目をそらしてきたゆがみがある。大人たちはこれまでにない子どもたちに奇異の目を、視線を投げかけ排除しようとする前に、自分たち自身のありようを振り返ってみる必要があるのではないか。(山本有理
読書会てつぼう:発行 1999/01/28