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ホラーだテラーだスプラターだ、などと怖い物が恐ろしいほどもてるご時世、科学万能の時代に、なんともうれしいじゃありませんか。まあ今回、その手のブームにのるというわけでもありませんが、鶴屋南北と並ぶジャパニーズ・ホラーの巨匠、三遊亭円朝てえ落語家の怪談噺(ばなし)のご紹介を。 えっ、古い? まあ南北も円朝も昔の人でございますから、そう感じる方も大勢いらっしゃるとは存じますが、シュールで不気味でどろどろした日本の怪談独特の恐ろしさは、西洋の三文ホラー小説なんぞの及ぶところではございません。まずはだまされたと思って、ご一読を。 といいますのも、岩波文庫の復刻版で円朝の『真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)』がでまして、これはもうホラーファン必読の一冊なのでございます。 いわゆる悪縁と申しますか、新左衛門の宋悦殺しをきっかけに展開する欲と怨みと嫉妬(しっと)の渦巻く凄惨な怪談噺、深夜読んでおりますと、ぞくぞくっと総毛だつ迫力がございます。 もともと高座で演じたものを速記したものでございますから、すっとばしたりなんぞなさらず、雰囲気を楽しみながらじっくり味わってみていただきたいもの。 円朝といいますと『牡丹灯篭(ぼたんどうろう)』が有名でございまして、こちらのほうも岩波文庫で手にはいりますし、名人の語りできいてみたいという方のためには新潮社から三遊亭円生の『牡丹灯篭』のカセットもでております。 涼味たっぷりの怪談噺、どうか存分にお楽しみのほどを。(金原瑞人)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席90/05/13
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