空へつづく神話

富安陽子作
広瀬弦絵、偕成社 2000

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 図書の時間に、図鑑や事典ばっかり見てないで、もっとちゃんとした本を読みなさい」と担任に言われた理(さと)子。図書室で偶然に出会ったのが『津雲の史蹟』という五十年近く前に発行された本。その本を手にすると同時に、目の前に太った大黒様のような白髪白髭のおじさんが姿を現す。記憶を失った土地神だという髭のおじさんは、なぜか理子に付きまとい、彼女の部屋で小さな白蛇に変身して居候する。本に紹介されていた“名月峠の大桜”が記憶を取り戻すきっかけにと、嵐の夜に理子は神様と空を飛び名月峠に降り立つが、桜の木は既に切り倒されていて切り株の中にとぐろを巻く大蛇の姿が見える。
 理子と神様は、津雲市にまつわる伝承や伝説をたどりながら、津雲はかつて九十九(つくも)村であり、それは「白」を意味し、村の神様が棲むのが白髪山で、その神様の名が白髪太郎だということを突き止める。そして百年前、小学校を建てるために神様の住む山を売り払い、怒った神様が村に災いを引き起こしたことも判る。髭の神様こそが白髪太郎であり、九十九が津雲に変えられたために記憶を失っていたのだ。古くから土地に根ざした神々は、自然を育み人々を守るとともに、ときとして荒ぶる神ともなって人々に警鐘を伝える。いささか頼りなげでユーモラスな神と少女の出会いから、素朴で人間味あふれる土着の神を蘇生させ、この作家ならではの物語世界をミステリアスに展開して楽しい。(野上暁)