空色勾玉

荻原規子

福武書店 1988

           
         
         
         
         
         
         
         
     
 最近の女性はいとも簡単に既成の概念をひっくりかえしてくれる。短歌の俵万智、川柳の時実新子、批評の上野千鶴子などはその代表選手。そしてここにもうひとり荻原規子という新人が、「日本の土壌にはファンタジーは根づかない」という根強い迷信を根っこから引き抜いてしまった。神々と人間とが入り乱れる神話の世界を舞台にした壮大なこの物語は、おそらく日本の神話をベースにしたはじめての本格的ファンタジーだろう。
 所は豊葦原、不死の御子を地上に送って国家統一を計る輝(かぐ)の大御神とそれに抵抗する闇(やみ)の一族との戦いが繰り広げられている。統一をもくろむ輝の大御神の真意はなにか、大蛇の剣の持つ力とはなにか、輝の大御神の妻でいまは黄泉に別れて住む闇の女神はこの戦いとどんな関係があるのか、様々な謎のうずまくなか、闇の一族でありながら光にもひかれる水の乙女狭也(さや)と、輝の大御神の末子でありながら狭也と行動をともにする異形の若者稚羽矢(ちはや)は戦いのまっただなかへとつき進んでいく。
 構成がしっかりしているうえに、物語の楽しさにみちていて、七〇〇枚という長さをちっとも感じさせないし、これほどの大風呂敷を広げながら最後まで破綻がないのは驚くほかない。最後に作者の言葉を引用しよう。「神話をもっている土地が、空想を排除するはずがないのです」。
 そのとおりです。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1988/09/11